Q.義務者が無収入となった場合、婚姻費用の支払いはどうなりますか?
質問
別居した夫が最近になり仕事を辞め、現在は無収入となっていることが分かりました。この場合、婚姻費用を請求することはできないのでしょうか。
回答
夫が退職して無収入になったとしても、家裁実務では、夫に婚姻費用の支払義務がなくなるとは考えないことが多いです。稼働能力(働こうと思えば働くことができる能力)がある場合には、一定程度の収入(賃金センサスから計算した金額や、退職前の賃金から一定程度減らした金額など)があることを前提とした婚姻費用額が認定されます。
(1) 婚姻費用の支払義務者から、退職したので収入は無くなったとの主張がなされた場合、先ずは、義務者の退職した経緯・事情を確認する必要があります。
めったにはないことですが、退職すべき理由もないのに婚姻費用の支払いを免れるために退職する義務者もいます。このような場合には、退職による収入減少や無収入化を婚姻費用に反映させることは信義則上相当ではありません。従って、このような場合には、退職後も退職前の収入と同程度の収入に基づき婚姻費用を算定すべきと主張すべきです。
養育費の事案ですが、先立つ審判で養育費の支払いを命じられた義務者が、その支払いをしないまま、強制執行を免れるために勤務先を退職し、養育費の免除を求めた事案において「勤務を続けていれば得べかりし収入に基づき、養育費を算定するのが相当である」とし、退職前の年収の同額の収入があるものとして、義務者の免除申立を却下した審判例(福岡家裁平成18年1月18日審判)があります。
(2)上記のような事情がなく、義務者が退職した場合には、義務者の再就職の可能性の程度に応じて、以下のように考えることができます。
① 求人需要の高い技術を有する者や有資格者の場合
このような技術者や有資格者は比較的近いうちに同程度の収入を得ることができる職に就くことができると考えられる場合には、退職前の収入と同程度の収入があるものとして扱う(参考:大阪高裁平成22年3月3日決定)。
② ①のような技術や資格を有する者ではないが、特に再就職の支障となるような事情はなく、再就職が可能と考える者
年齢的にも健康面においても、再就職が可能と考えられる場合、特に比較的近いうちに再就職が可能な場合には、賃金センサスをもとに年収が算定されることが一般的です。
通院や服薬をしており健康状態にある程度問題がある場合も、就労が困難と判断されない限り、一定程度の就労は可能な状態であると稼働能力を認め、義務者の年齢・学歴・職歴等を勘案の上収入が認定されることが多くあります。
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